先日、第7回文学ワイン会「本の音 夜話」が
ワインショップ・エノテカ 銀座店 カフェ&バー・エノテカ・ミレで開催され、
芥川賞作家・田中慎弥さんにゲストでお越しいただきました!
「そもそも田中さんはワインお好きですか?」
とのナビゲーター・山内宏泰さんの質問に、
「好きですよ。肉だったら赤とか、
自宅で飲むなら煮魚に赤ワインとかもやったりします。」
とのご返事。
「仕事が楽しみです、と言えればいいのですが、
楽しみを超えた水準で闘っているようなところがあるので、
ほぼ唯一の楽しみと言えば、映画とお酒です」
と、お酒好きな一面を明かしていただきました。
初めに田中さんは、自ら選ばれた開高健著『ロマネ・コンティ・一九三五年』を朗読。
二人の男が、若いけれども素晴らしいワイン(ラ・ターシュ1966年)を飲んだとき、
ワインの深みのある赤色が、ある豊穣な思い出を蘇えらせます。
朗読でもご自身が惚れ込んだ箇所に力が入り、
豊かなワインの描写と相まって、この会にぴったりの最高の朗読となりました。
そしてお話はワインの色から、真っ赤な装丁が印象的なご著書『燃える家』のお話に。
ラストは衝撃的なクライマックスが待ち受けています。
「私はどんな短いものでもラストシーンはあんまり考えてなくて、
書きながら大体こっちの方だろうと書いていきます。
クライマックスでは、子どもの頃から何度も見ている
先帝祭(せんていさい)というダイナミックな祭りの場面を正確に描写し、
色や動き、いろんなものを全部詰めて盛り上がっていく方向に持っていきました。」
渾身の作である『燃える家』は原稿用紙1000枚を超える大長編。
長編、短編に関わらず、常に手書きで原稿を執筆されている田中さん。
まず下書きはFAXの裏紙に小さい字で刻むように書き、
それから清書で原稿用紙のマス目を埋めていくのだそう。
「谷崎や川端の時代の原稿は筆ですけれども、
いま谷崎がいたら手書きではないかもしれないですよね。
何で書くかというのは時代によって確実に違うし、
書き方や道具によって文体や何かが影響を受けるということがあると思います。」
先日芥川賞を受賞した本谷有希子さんの『異類婚姻譚』は、
パソコンでの目の酷使を避けるため、あえて手書きで書いたという話を受け、
「作品によって今度は私がパソコンで書くということが…」
と話す田中さんに、
山内さんがすかさず「あるんですか?」と突っ込むと、
「いやないですけれども…」と答え、会場の笑いを誘う場面もありました。
芥川賞受賞会見のイメージがいまだに付いてまわるそうですが、
「それがあるとありがたいんですよ。
恐いと思われていますが、会うとそうでもない、
案外会話はちゃんと成立するじゃないかと思われて」
とお話されるなど、会場は終始和やかな雰囲気に包まれました。
ワイングラスを傾けながら、田中さんの小説観や文学への想いをはじめ、
そのお人柄まで感じられた、楽しく贅沢なひとときとなりました。
『燃える家』(講談社)
定価2300円+税
【当日お召し上がりいただいたワイン】
トルマレスカ・シャルドネ / アンティノリ白 税込1,944円
レ・ディフェーゼ / サッシカイア(テヌータ・サン・グイド)赤 税込4,212円
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