2016年10月30日日曜日

“完璧主義”のシャトー・ラトゥール支配人、フレデリック・アンジェラ氏来日!


先日、シャトー・ラトゥールの支配人兼社長であり、
ブルゴーニュのドメーヌ・デュージェニー、ローヌのシャトー・グリエ、
カリフォルニアのアイズリー・ヴィンヤード(旧アローホ・エステート)を統括する、
フレデリック・アンジェラ氏が来日。

プロフェッショナル向けにマスタークラスが開催されました。

















↑10月23日 帝国ホテルにて開催された「アルテミス・ドメーヌ マスタークラス」


フレデリック・アンジェラ氏が勤めているのは、
ボルドー、ブルゴーニュ、ローヌ、カリフォルニア・・
ワインの銘醸地に錚々たるワイナリーを所有する
「アルテミス・ドメーヌ」。

フランスの億万長者として知られる、
フランソワ・ピノー氏が設立したグループです。
アルテミス・ドメーヌの傘下にあるのは、
グッチ、ボッテガ・ヴェネタ、サンローランといったブランドを展開するケリング、
そして世界最古の名門オークションハウスであるクリスティーズ等々・・
一流のブランドだけを所有するグループを見れば、
錚々たるワイナリーもなるほどと思うラインナップです。

アートの蒐集家として、また大のワイン好きとして知られるピノー氏。
(アートに関しては今月発売された英アート・レビュー誌で、
世界で最もアート界に影響のある人物と発表されたほど)
彼はワイン造りについて、
「これはビジネスではなくパッション!」と表現しているそうで、
一流ブランド、そしてアートを見極める際と同じ審美眼で、
世界中の宝石のようなワイナリーを手にしてきたと言います。

さて、マスタークラスでは、アルテミス・ドメーヌが手掛ける
4つのワイナリーから多くのワインを紹介されましたが
その中でも、フレデリック・アンジェラ氏が支配人を務める
シャトー・ラトゥールについて、ご紹介します。























↑フレデリック・アンジェラ氏。アルテミス・ドメーヌのワインを前に。


五大シャトーの中でも孤高の存在であるシャトー・ラトゥール。
「孤高」たらしめているには数々の逸話があります。

一つは、その圧倒的な品質はもとより、
2012年を最後に、格付けのシャトーとして初めてプリムール販売を廃止。
全ての生産量をシャトーでキープし、
飲み頃になった時点でリリースするという方針に方向転換し
ボルドーワイン界に一石を投じたこと。

「樽で熟成中のワインを現金化して資金を確保する」
という側面をもつプリムールシステム。
また、ボルドーの仲介人の反発は必至という状況で
全てのワインをシャトーで熟成させるという決断には、多くの犠牲を伴ったようです。
フレデリック氏曰く、

「メッセージはクリアだ。飲み頃になったワインだけをお客様に紹介したい。」

ただどれだけ資金力があるグループと言えども、
これを続けていくのは大変なことのようで、
「古いヴィンテージのワインを売りながら、続けていきたい。」
とフレデリック氏は語っていました。

さらに最近では格付け1級シャトーとして初めてビオディナミ栽培を開始。
品質をストイックに追い求める姿勢に注目が集まっています。

さて、今回試飲したのは、
サードワインであるポイヤック・ド・ラトゥールにはじまり
セカンドのレ・フォール・ド・ラトゥール、最後にシャトー・ラトゥール。

特に印象的だったワインをご紹介します。

レ・フォール・ド・ラトゥール


















2009年 レ・フォール・ド・ラトゥール
 
 
フレデリック氏はこのワインを紹介する際、
 
「どうしても、このワインをセカンドと呼ぶのを躊躇してしまう。」
 
と一言。
 
元々格付け第1級シャトーのセカンドワインの中でも
卓越した品質に高い評価を得ていたレ・フォール・ド・ラトゥールですが
その品質には、近年さらに磨きがかかっているそうです。
 
このレ・フォール・ド・ラトゥールに使用するブドウは
かつては若木でしたが、すでにその樹齢も4~50年に達し、
若木どころか、すでに古樹の部類に入り始めています。
 
それに加え、1993年にピノ―家がシャトーを手に入れた後
買い足した20haの新しい区画のブドウの品質が大変高く、
このブドウをブレンドすることによって、
レ・フォール・ド・ラトゥールの品質はさらに高まったとか。
 
2009年は、フレデリック氏曰く「とてもエネルギーがある。」
「少しナパのワインのような印象もある」と表現するように、
圧倒的な果実のアロマと凝縮感に思わず言葉を失ってしまうほど。
 
 「品質だけをみれば、格付け2級に相当するレベルだと考えています。」
 
とフレデリック氏が話すように、
その味わいは、セカンドの域を完全に超えています。
 

シャトー・ラトゥール
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

難しい気候だったと言われるボルドーの2007年。
シャトー・ラトゥールも例外なく日照不足に悩まされたそうですが、
 
「難しい年にこそ、偉大な“ランクロ”のテロワールを感じることができる。」
 
とフレデリック氏。
 
熟したフルーツの繊細なアロマ。
タンニンは大変きめ細かくしっとりと落ち着いており、
今年に入って「飲み頃」と判断されシャトーからリリースされたことからも伺えるように、
まさに飲み頃を迎えつつある1本です。














 
 
 
その緻密なワイン造りに“完璧主義”と評されるフレデリック・アンジェラ氏。
現在はシャトー・ラトゥールだけでなく、
ブルゴーニュとローヌ、さらにはカリフォルニアでもワイン造りを統括しています。
 
「これだけ様々な地域でワイン造りをマネジメントするのは難しいのでは?」
 
と質問されると、
 
「とてもよいチーム、そして信頼できるメンバーがいるからそれが可能になるのです。
 大切なのは、同じボキャブラリーをもつこと。時には冗談を言って彼らを励ますことも。
 私は彼らをアシストしているだけです。」
 
との答え。
 
マスタークラスの会場では、
日本を代表するソムリエ、ワインジャーナリストを前に
 
「質問は?」 「他に質問は?」 「質問はそれだけ?」
 
と、とにかくすごい勢いでワインに関する質問や感想を求めていました。(笑)
 
そしてどんな質問にも即答、そして滑らかに答える姿が印象的でした。

「孤高の完璧主義者」といシャトー・ラトゥールの
イメージを体現したかのように見えるフレデリック氏。
 
しかし会場で垣間見えたのは、チームと同じ言葉で話し、
ディスカッションによってワインを造り上げているであろう、
“熱い”ワインメーカーの姿でした。
 
 
 

2016年10月24日月曜日

NZシレーニのチーフワインメーカーが日本で必ず食べるもの

先日、ニュージーランドのシレーニ社より、
チーフワインメーカーのグラント・エドモンズ氏が来日。
インタビューに答えていただきました。





















↑シレーニのチーフワインメーカーで、Mr.メルロことグラント・エドモンズ氏。

近年世界的に人気が高まっているニュージーランドワイン。
今年のレポートでは、輸出量は前年比10%増。
特にアメリカやイギリス、北欧など欧米諸国での需要が
数字を牽引しているそうです。

世界各国で和食のブームなど、ライトな食事のトレンドはしばらく続いており、
旧世界にはない豊かな果実味と、
旧世界らしい繊細さ備えたニュージーランドワインは、
まだまだ世界を席巻しそうです。


グラントさんのワイン歴はとてもユニーク。
約28年前、バックパックを背負って世界中を旅していた時に
フランス、イタリアといったヨーロッパ各国を来訪。
その時に「ファンタスティックな」料理とワインを口にし、ワイン造りに興味をもちます。

帰国後は、ニュージーランドでも古くから続く名門ワイナリーヴィラ・マリアに就職。
ワインメーカーとして活躍しながら、
オーストラリアやボルドーでもワイン造りを経験します。

世界各国でのワイン修行の後、念願叶って小さなワイナリーを立ち上げたころ、
「新しいワイナリーをつくるから、一緒にワインを造らないか」と声をかけてきたのが
シレーニ・エステートの創業者であり社長のグレアム・エヴリー氏。




















↑シレーニの創業者であり、社長であるグレアム・エヴリー氏。

医学書の販売で財を成したグレアム氏は、
実は、ヴィラ・マリアの顧客だったそうで、
そこでワインメーカーを務めていたグラント氏を見出したそうです。

そんな2人がホークス・ベイの中でもワイン造りに最適な土地を捜し、
ブドウを植えたのが1997年。ここからシレーニ・エステートの歴史が始まりました。

ホークス・ベイは「ニュージーランドのフルーツボウル」と呼ばれる産地。
年間の降雨量や気温はボルドーやブルゴーニュに良く似ており、
ソーヴィニヨン・ブランやピノ・ノワールが植えられている
冷涼なマルボロに比べると平均気温は高く、
厚みのある味わいのメルロやシャルドネといったブドウ品種が
成功している産地でもあります。

現在でこそ多くのワイナリーが進出しているホークス・ベイですが、
シレーニを立ち上げた当時は、辺り一面牧場で、いるのは羊ばかり。
ワイン畑は一つもなかったとか。





















↑こちらは2016年現在のホークス・ベイにあるシレーニの畑。
 広大な土地にブドウ畑が広がっています。

そんな場所を、グレアム氏とグラント氏は少しずつ開拓して
ワイナリーを大きくしていきました。
シレーニ・エステートは、まさにホークス・ベイのパイオニアと言えます。

シレーニのワインと言えば、ソーヴィニヨン・ブランが知られていますが、
実は、ホークス・ベイに拠点をもつシレーニの真骨頂は、
シャルドネとメルロにあります。
特にメルロは、Mr.メルロことグラント氏渾身の1本。



















↑セラー・セレクション・メルロ / シレーニ 
 
 
世界中でワイン造りを学んだグラント氏の
ボルドーの修行先は、サンテミリオンのトップシャトーの一つ、シャトー・パヴィ。
厚い泥の層が砂利質を覆うというホークス・ベイの土壌が、
ボルドーの右岸の土壌に良く似ていたことからメルロを植え始めたそうです。

Mr.メルロと呼ばれるグラントさんには、
来日時にエノテカのスタッフから必ずされる質問があります。
それが

 「お好み焼きはもう食べましたか?」(笑)

2001年の初来日以来、数えきれないほど来日しているグラントさん。
実は日本のお好み焼きが大好きだそうで、
来日すると必ず食べているとか。


















このお好み焼きに合うのは、
何と言ってもシレーニのセラー・セレクション・メルロ。

お好み焼きの甘辛いソースの風味が、
よく熟したチェリーやプラムのアロマとなめらかな果実味をもつ
やさしい味わいのセラー・セレクション・メルロとマッチします。

エノテカのスタッフがニュージーランドを訪れた際には、
現地でワイナリーの皆さんにお好み焼きを振る舞って大好評だったとか。

お寿司や天ぷらにニュージーランド産のソーヴィニヨン・ブランは鉄板ですが、
現地のチーフワインメーカーも太鼓判を押すお好み焼きとの組み合わせも、
ぜひ一度試してみてはいかがでしょう♪

2016年10月9日日曜日

スペインの名門トーレス社の次期当主が来日!

スペイン・カタルーニャで創業したスペインワイン界の名門、トーレス社より、
現当主4代目ミゲル・A・トーレス氏のご子息であり、
5代目として将来のトーレスを担うと言われるミゲル・トーレス・マクサセク氏が来日。
エノテカのインタビューに答えていただきました。






















↑ミゲル・トーレス・マクサセク氏
物腰はとっても穏やかで、まるでロイヤルファミリーのようなオーラがありました。

1979年、トーレス社が他のワイナリーに先駆けて
チリに進出したことは知られていますが、
これを進めたのが彼の父である現当主のミゲル・トーレス氏。

ステンレスタンクや小樽の導入といった革新的な取り組みで
チリワイン全体の品質向上を牽引しました。

こちらの5代目ミゲル・トーレス・マクサセク氏は2009年からチリに在住し、
フェアトレード、オーガニック栽培、伝統品種パイスの復活など
新しいプロジェクトを実現させてきました。(⇒詳しい記事はこちら)
現在はスペインに戻り、トーレス社全体を統括されています。

トーレス社は、2014年、2015年と2年連続で
「世界で最も尊敬されるワイナリー」に選ばれていますが
その背景には、地球環境や伝統品種への熱心な取り組みがあります。
特に近年力を入れているのが地球温暖化対策で
膨大な研究開発費を、この地球温暖化対策に注いでいるそうです。

 「自然の恩恵を受けるワイナリーの責任です。」

と語るトーレス氏。地球環境に配慮したワイナリーづくりを押し進めており

 「これはまだ夢ですが、近い未来に最終的には100%自家発電で運営できる
  サスティナブルなワイナリーを完成させたい。」

と、熱心にその取り組みを語ってくださいました。

最後に、ご自身の代で一番取り組みたいことは?
と尋ねるとこんな答えが返ってきました。

 「やはり、プレミアムワインを造りたい。」
 「我々はワインメーカー。どの世代でもより良いワインを造る必要がある。」

実は、新しい土地を購入して、
未来のアイコンワインを生み出すプロジェクトが進んでいるとか。

そのために家族の協力は不可欠で、
同じくワインメーカーの姉、ミレイア・トーレスさんや、
叔母であり、カリフォルニアでワイン造りを行っているマリマー・トーレスさんとは、
いつもお気に入りのワインを持ち寄って「どこがフェイバリットなのか」
と、日々意見交換をしているそうです。



















↑ミゲル・トーレス・マクサセク氏と、 
姉でありジャン・レオンのマネージング・ディレクターおよび、
トーレス社の研究施設に勤務するミレイア・トーレスさん。

そこで、ミゲル・トーレス・マクサセク氏のフェイバリットワインは?と質問すると

 「マス・ラ・プラナ。ハイクオリティなだけでなく、革新的なワインだから。」

との答え。





















マス・ラ・プラナ 2010  750ml
スペイン産カベルネ・ソーヴィニヨンの単一畑で生み出される
トトーレスのフラッグシップ。ファーストヴィンテージである
グラン・コロナス・ブラックラベル(現マス・ラ・プラナ)1970年が、
パリ ワイン・オリンピックで、メドック格付け第1級シャトー・ラトゥールなど
トップシャトーを抑えカベルネ・ソーヴィニヨン部門で見事優勝。
これによりトーレス社はトップワイナリーの地位を確立した、
同社の記念碑的ワインです。


終始穏やかに語るマクサセク氏でしたが、
「プレミアムワインを造る。」と答えた時、
内に秘めた大きな野心が少しだけ垣間見えた気がしました。

5代目が造る、マス・ラ・プラナに続くトーレスの新たなプレミアムワイン、誕生が楽しみです。