2016年8月9日火曜日

作家・堀江敏幸さん登場!文学ワイン会「本の音 夜話(ほんのね やわ)」

先日、第9回文学ワイン会「本の音 夜話」が
ワインショップ・エノテカ 銀座店 カフェ&バー・エノテカ・ミレで開催され、
作家の堀江敏幸さんにゲストでお越しいただきました!





















ナビゲーターの山内宏泰さんから、
ワインが似合う作家、として紹介された堀江敏幸さん。
ですが、堀江さんは「お酒は飲まないです」ときっぱり。
「この話をいただいたときに、これは明らかにおかしいと(笑)
 酔っぱらった人の中で話をするのはまったく抵抗がありません。
 皆さん今日はどんどん飲んでいただければと思います」
との御挨拶で会がスタートしました。

1杯目にサービスしたワインはシャブリ。
最新長編小説『その姿の消し方』の章のひとつ、
「発火石の味」からイメージしてお出ししたもの。
火打石、発火石の香りは、シャブリに特徴的であると言われています。




















◆シャブリ / ダニエル・ダンプ2014 白 税込3,240円


 「「発火石の味」はワイン用語ですが、
 僕は昭和のガキだったので、石なんかよく齧ったわけですよ。
 それこそ、ライターの石とか小石とかいろんなものを齧ったんです。
 ちょっと舐めてみたりとか。
 だから僕はワインより先に発火石の味を知っているわけです。」

ワインの味を知らなくても、ワインの形容やテイスティングの言葉を知っていれば、
味わいの追体験をしたような気持ちになれるそう。

「文芸用語や批評で用いられるような言葉のストックがあって、
 言葉そのものを信用しても味に近づける感じがします。
 ワインを説明する形容だけ見ていても楽しいですよね。
 そこに味が伴わないと浮いた言葉になるというのはわかるんですけど、
 分解酵素の少ない人間にとっては仕方がない。
 読めない外国語の日本語訳を読んでいるときのような、
 あきらめと憧れともどかしさ、それが全部ワインに対してあるんです。」
















ワインから、堀江さんのご著書に登場する美味しそうな料理の話に続き、
フランス留学時代、学生食堂の入り口に山積みにされていたバゲットを
留学生仲間と食べた思い出の話に。
たまたま重なり合ったそのときの状況によって、
硬くなったパンながらとても美味しく、
忘れられない思い出の味となったお話をしていただきました。
 「思い出や記憶をもとに作品を書かれるんでしょうか?」
との山内さんの問いに、

 「実際じゃないものを作って書くことも当然あるでしょうし、
 実際のものを書いても、そのとおりに書けたためしがない。
 後から思い出しながら書くというのは創作なんですね。
 だから書くことはすべて後追いの虚構になるんです。
 モデルがあるなしはまったく関係ない。文字の上では存在しているわけで。
 文字にするということの面白さと怖さは、そこにあると思います。」















そして、「転ぶ」ということにこだわりを持っている堀江さん。
転びやすいという事実と、転ぶという言葉についての思い、両方があるそうです。

 「気をつけているんですけど、本当によく転ぶんです。
 何か信念を持ってなければ、いつでも転ぶんじゃないかという恐怖があるわけです。
 これだけ転ぶ以上はなにか隙があるにちがいない。
 誰かにそこに突かれたら、簡単に寝返ってしまうんじゃないか。
 そうならないようにひとつのことを長く続けるとかですね、
 転ばぬ先の、じゃないけど、そうしたい気持ちはあります。」

最後のQ&Aでは、質問用紙にびっしりしたためた、熱のこもった質問がたくさん!
長編小説『その姿の消し方』を書くきっかけについても質問が出ました。
読み切りの雑誌に短編を書いた際、
ページを文字でぎっしり埋めると読みづらいことから、
詩を入れ、空白を作ることを考えたのだそうです。

 「空白があれば比較的気持ちが楽になると思い、詩を入れようと思いました。
 翻訳詩を3篇載せたんですが、何かの度にその空白が頭をよぎるんです。
 空白の前後にある空気とは、一種の磁場のようなものですね。
 時間が経つうちに、その磁場の中から
 消し得ない記憶が、言葉になってあらわれる。
 その言葉をめぐって書くことにしました。
 それが繋がっていき、6~7年かけてひとつの形になった作品です。」

子どもの頃やフランス留学時のエピソードなど、
ユーモアを交えつつ率直に語られるお話に、会場からは何度も笑いがこぼれました。

堀江さんはお酒ではなく、場や人の気配、
お酒を飲んだ人が醸し出す雰囲気などに酔うことがあるそうですが、
この日はまさにワインだけでなく、
堀江さんのお話が醸し出す和やかで豊かな時間と、
作品だけでは知り得ないユーモアにあふれた優しいお人柄に
酔いしれたひとときとなりました。















『その姿の消し方』(新潮社)
定価1500円+税
最新長編小説。
古い絵葉書に綴られていたアンドレ・ルーシェという
無名の詩人の痕跡を「私」がたどる物語。

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